
「仕事終わりの冷えたビールと濃い味のおつまみが、最高のご褒美だ」 そう語る一方で、健康診断で指摘を受け、「そろそろ減塩とか、なにかしらの対策をしないとマズいのでは…」と漠然とした不安を抱えていませんか?
「病院で注意されたけれど、味の薄い減塩料理は美味しくない」 「体には気をつけたいけれど、長年の楽しみである晩酌や好みの味付けまで奪われたくない」
一見ワガママにも思える本音ですが、『無理な我慢は続かない』と知っているからこその、とても誠実な不満や焦りだと私たちは考えています。今回は、塩分をただガマンして削る『引き算の減塩』から一歩進んで、大好きな食を楽しみながら賢く身体を守る『適塩(てきえん)』というアプローチについてご紹介します。
指導現場で判明した「我慢の減塩」が失敗する理由
私はこれまで特定保健指導の現場で、働く世代の多くの方々から食事管理のご相談を受けてきました。長年親しんできた食習慣を急に変える「引き算の減塩」は、強いストレスとなり長続きしません。
以前、現場管理の仕事をされている50代の男性を担当した際のことです。私が教科書通りに「明日から晩酌を控え、おつまみも薄味にしましょう」と提案したところ、彼は苦笑いしながらこう話してくれました。
「毎日仕事を頑張って、夜のビールと美味いおかずだけが唯一の生きがいなんだよ。それをやめろと言われたら、何のために働いているかわからなくなる。散歩くらいならやるけれど、食べる楽しみだけは絶対に譲れないよ」
この言葉は、指導者としてのあり方を根底から見直す大きなきっかけとなりました。一人ひとりに人生観があり、日々の生活の中で譲れない楽しみがあるのは極めて自然なことです。そこを無視して我慢を強いる正論は、その方の楽しみや人生そのものを否定しかねないと痛感したのです。
もちろん、だからといって好きなだけ暴飲暴食して良いというわけではありません。 人生一度きりだからこそ、いくつになっても元気に動ける体で美味しいものを末長く楽しんでいただきたい。「大好きな食の楽しみを守りながら、無理なく続けられる選択肢を増やしていくこと」。これこそが、私が指導現場を経て最も大切にしている原点です。
「普通に食べているつもり」に潜む無意識の塩分と夏場の罠
では、無理な我慢をせずにスマートな対策を始めるために、まずは「自分の日常のどこに塩分が潜んでいるのか」というリアルな現状を知ることから始めてみましょう。
「ラーメンのスープを毎回飲み干しているわけではないから、自分は大丈夫」と思っていませんか?
しかし、居酒屋や自宅での以下のような「定番の晩酌セット」を思い出してみてください。
- 冷えたビールと、ウインナーや練り物
- 濃い目の味噌だれが絡んだホルモン焼きやジューシーな唐揚げ
- 締めにサッと食べる、お漬物とお茶漬け

どれも魅力的ですが、実は意識しないうちに「一食で1日分に近い塩分が収まってしまうセット」でもあります。
特に夏場は「汗をかいたから塩分補給が必要だ」と考えがちですが、お酒(アルコール)には強い利尿作用があります。濃いおつまみとお酒が合わさると体内の「水分」が先行して排出され、結果的に「塩分」だけが体内に濃く残る状態に陥りやすくなります。
翌朝の「指輪がはずれない」は、減塩が必要な身体が出している隠れたサイン
「自分はまだ元気だし、体調も崩していないから問題ない」と思っていても、体には少しずつ負担が蓄積されています。晩酌の翌朝、以下のようなサインはありませんか?
- 手にしている指輪がなかなかはずれない
- 朝起きたとき、顔や目のまわりがむくんでいる
- 夜中や早朝に、猛烈に喉が渇いて目が覚める
- 肌が乾燥しやすい
これらはすべて、前夜に摂りすぎた塩分(ナトリウム)濃度を下げようとして、体が水分を過剰に溜め込もうとする「隠れたSOSサイン」です。この状態を放置すると、日常的に血管や器官へ負担をかけ続けることになります。
晩酌を楽しみながら実践できる!今日から試せる3つの適塩テクニック
「晩酌をやめる」「すべての味付けを薄味にする」 決めてはみたけれど、続けることが大変。
そんな時は、まずは今の生活スタイルを維持したまま、簡単な工夫(足し算と置き換え)をプラスしてみませんか?
① 最初の1品に「カリウム豊富な食材」を取り入れる


体内の余分な塩分の排出をサポートするのが「カリウム」です。メインのお肉や濃いおかずに手をつける前のファーストステップとして、カリウム豊富なおつまみを1品口にしておきましょう。
【店(居酒屋・外食)で食べるとき】
注文してすぐに出てくる「スピードメニュー」から選ぶのがコツです。メインの唐揚げやタレの焼き鳥が届く前に、お酒と一緒にサッと頼んでおきましょう。
- スピード・小鉢系: 枝豆、冷やしトマト、叩ききゅうり、たたき長芋
- さっぱり・海藻系: もずく酢、わかめポン酢、海藻サラダ、ほうれん草のおひたし
- 温かい一品: 焼きナス、きのこソテー
【家(コンビニ・スーパー惣菜)で食べるとき】
包丁も火も使わず、「買ってきたパックのまま卓上に出せるもの」を選ぶのが一番長続きします。
- コンビニのパウチ惣菜・冷凍食: 枝豆(パウチまたは冷凍)、里芋の煮っころがし、タコとブロッコリーのサラダ
- パック惣菜(冷蔵): 3食パックの「めかぶ」「もずく」、ひじき煮、切り干し大根、納豆
- そのまま出せる生野菜: 洗わず袋から出すだけの「大根サラダ」「カット野菜」、パックのミニトマト、切るだけのアボカド
(※注意:腎臓疾患等で医師からカリウム制限の指示が出ている方は、必ず主治医の指示に従ってください)
② 「追い醤油・追いソース」を「酸味やスパイス」に置き換える
料理に追加で醤油やソースをかけてしまう習慣がある方は、味を薄くするのではなく「刺激の種類」を変えるのが効果的です。
- おすすめの調味料: レモン果汁、かぼす、お酢、黒胡椒、七味唐辛子など
人間の舌は「酸味」や「スパイスの刺激」があると、塩分が控えめであっても脳が十分に「味が濃くて美味しい」と認識する仕組みになっています。
③ お酒と同量の「やわらぎ水(チェイサー)」を一緒に飲む
お酒と一緒に「お水」を飲むことも、実は非常に優れた適塩アプローチの一つです。 アルコールの利尿作用によって体内の水分だけが抜けていくと、血液中の塩分濃度が一気に高まり、むくみや体の負担につながります。お酒と同量のお水を挟むことで、体内の塩分濃度を適切にコントロールし、翌朝のすっきり感やスムーズな塩分排出をサポートしてくれます。
個人の工夫だけでは「まかないきれない塩分」への新しい選択肢

自分で運動を始めたり、おつまみを工夫したりする取り組みは非常に素晴らしいことです。しかし、大好きな濃い味付けや毎日の晩酌から摂取する塩分を、個人の努力だけで完全にコントロールすることには限界があります。
そこで当協会が提案しているのが、【塩分オフセット】という科学的なアプローチです。 食事に含まれる塩分(ナトリウム)の一部を、海藻由来のアルギン酸類で吸着し、体内で吸収されにくい「アルギン酸ナトリウム」に変化させて排出を助けます。
「食事の味を変える」「お酒を我慢する」といったストレスをかけることなく、現代のライフスタイルに合わせて無理なく取り入れられる新しい適塩の形です。
まとめ:自分の人生を楽しみながら、賢く体を守る
健康管理とは、大好きな楽しみをすべて手放すことではありません。今日できる小さな工夫を楽しみながら重ね、裏では科学の力(塩分オフセット)を頼もしいお守りとして持っておく。そんな心の余裕とスマートな姿勢こそが、これからの人生と健康を長く守る一番の近道です。
まずは今夜の晩酌に、冷やしトマトや枝豆を1品添えることから始めてみませんか?

一般社団法人 おいしく適塩推進協会 管理栄養士 三浦 【プロフィール】
大学卒業後、管理栄養士資格を取得。専門機関にて、通算1000名以上の特定保健指導に従事。現在はトイメディカル株式会社に入社し、当協会の専任管理栄養士として、現場経験を活かした「我慢しない適塩ライフ」の普及・発信を行っている。
